「パリでは、今日」

 同じ劇場、シャトレ座で玉三郎の公演が10日間。昨年暮れからパリ市内に沢山大きなポスターが出て、フィガロ紙でも今週は1ページ全部を割いて26年振りのパリ公演を紹介。2月前半の劇場ニュースは、人間国宝や女形で興味をかきたてる。地唄舞の初日を見たが、浮世絵の歌麿の顔、姿そのままが立っていて、美しいなとエキゾチックな興味は感じるが、踊りが地味な動きでの表現だから、三方に映る地唄の仏語訳字幕に目を走らせては、踊り手さんを見ても、じっと立っているだけみたいで、狐につままれたというのが本音だろう。「ここに来ていて、分からないと言っては、文化人では無いと、見做されますから」そう言って周りを気にしていたフランス人も居たが。
 何故映画祭が多いのだろう。年が明けるとあちらの市でもこちらの市でも、似たような映画祭企画である。日本映画にも「金の太陽」という映画祭が、パリの隣のオアーズ県の行事として始まり、7年目である。日本の新作映画10本が選ばれ、各所上映、優秀人気作品にトロフィーが出される。昨年11月に始まり、最終日セレモニーが1月25日にあった。仕事をしていると実際、昼間から映画館などには行けず、若い時はどうしてあんなに時間があったのだろうと思うが、年金老後生活の人には嬉しいだろう。結局、パリ日本文化会館での最終日にだけしか行けなかったのだが、「ライト・アップ・日本、日本を照らした、奇跡の花火」と言う柿本ケンサク監督の作品が、フィナーレに記念上映された。東日本大震災の後、お盆に東北の10海岸に慰霊の花火を上げると言う映画である。ドキュメンタリー風に花火実現までが映されて、実際にこんな風に現地で暮らしていて、こう考えると意外に明るい。震災記念の写真展なども多いが、被害の記録ばかりで現実が抜けている。東北の人々の明るく立ち向かう日常の暮らしに、映画では救われる思い、映画って大切な文化伝達の手段なのだと、改めて思ったのだった。総立ちの大拍手だった。

2013年2月10日 赤木 曠児郎

page3/3