2013年暮れ、美作の山に産声がこだました。実に半世紀ぶりとなる棚田村での自宅出産だ。母・井筒木綿子さん(29)はいう「他の誰でもなく自分らだけの価値観で生き方をつくりたい」と。生まれてきたのは女の子、「たね」と名付けた。兄の風太(2)とともに幸せを運んでほしいとの願いを込めている。
かつて8300枚の棚田を誇っていた美作市上山の棚田村。ここは今、都会から移住した若者たちと地元住人による地域の再創造が行われている。「ここで生きていけることを証明したい」と英田上山棚田団の西口和雄さん(47)。
2013年秋、稲刈りを終えた上山の棚田村が新しいシーズンを迎える。井筒木綿子さんが仲間と企画した「マザーアートフェスティバル」の開催だ。日本の原風景に「母」をテーマとするアートがなじむ。春この地に移住したタップダンサーの郷野朝生さん(40)は棚田での1000人達歩(タップ)を目指す。それはダンス史上前例のないパフォーマンスだ。そんな上山が世界とつながる日もやって来た。世界的慈善家ロックフェラー家との出会いである。かねてから上山の若者たちと親交のある安倍昭恵首相夫人も合流しての刺激的な1日に密着した。
「この村が目指すのは世界最先端の田舎だ！」と彼らは口をそろえる。美作市上山の若者たちを追ったドキュメント「田舎からニッポンを変える」シリーズの第3弾。2013年夏から2014年正月までの、にぎやかな棚田村の物語である。


写真：デイヴィッド・ロックフェラーJr夫妻、安倍昭恵首相夫人、西口和雄さん
写真：井筒木綿子さんと生まれてきた子「たね」ちゃん