「秋の風鈴考」

  それにしても、我が家の風鈴は、どうも静かだ。時たま頭の上で短冊がヒラヒラ動くのだが、鳴らない。パリに来始めの日本人がよくやる失敗に、窓を全開するのがある。自動車やバスの窓を、冷房が無いので風を入れようと、気を利かせて開いたりすると、「年寄りを殺す気か、閉めろ」なんて周り中から怒鳴られて、動転した経験を誰でも持っている。フランスは、日本では心地が良く大変に好まれる、吹き抜け風が厳禁なのである。これに当たると、リューマチは再発するし、必ず体の調子を健康な人でも壊すから、常に風の流れに当たらない様に用心している。亜熱帯の日本の空気は、海からの湿度を含んでいて、体温を奪うのを防いでいるが、湿度の低い乾燥した空気のヨーロッパでは、長く風に当たると、体温が芯から奪われてしまって諸病発生、本当に体を壊してしまうのである。
 どうも一行のフランス人たちに、無用の長物を買わせてしまったようだと、風鈴を見上げている。
 

2012年9月5日 赤木 曠児郎

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