パリの夏休み
パリの夏休み
 

「バカンス」

 これはほんの一箇所の話で、フランス中に同様沢山あって、パリを空にして散らばっている大産業である。日本人の避暑というと、金持ちの階級の軽井沢か、湘南の別荘地、ハワイか南洋の島、精々お盆の帰省休みくらいになる。ところがフランス人にとっては、1936年6月の労働協約で、有給休暇を勝ち取った人民の権利である。行列、ラッシュをしてまで大真面目に演じられる義務であることを、この人混みの中で痛感する。
 大変な熱心さでこの国の人たちは、バカンスという権利を考えているのである。旧貴族、ブルジョワ階級に対する、人民の権利の祭典を70年間、毎年各人しっかりと繰り返し、履行しているのである。静かなパリの方が良いとか、出ない人もあるが、どんなに忙しくても、バカンスも取れないのは、敗北者の、悔し紛れの泣き言でしかないのが、よく分かる。シャッターの降りた殆どの商店、人影まばらなパリ、一部だけパリに来る旅行者のために開いているが、心はそこになく交替で行く自分のバカンスのことしか、頭にはないこの季節である。
 出来立てホヤホヤの新大統領からして、アメリカにバカンスを過ごしに出かけ、まるでフィッツジェラルドの「グレート・ギャッツビー」そのまま。早速呆れさせ、少し失望させているのだけれど。

2007年8月8日 赤木 曠児郎  
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