「暮れのパリ」
著書が世界にベストセラーで、日本語でも出され、今書評などでもトップの話題なのであるから、くどくどと書かないが、「日本での印象的な体験は?」の質問に、フランス語だけで聞いた講演なので、正確でないかもしれないが:
ニッサンの経営建て直しを計ったときに、従来の下請け企業の人達を集めて、合理化のための整理の説明をした。
その時ある工場のオーナーが、自分のところは打ち切られて、傍から見ると潰れるかもしれないのに、「ニッサンには、長いこと仕事をもらって世話になってきた。その親会社が危機なのに、それを救うためには、私のところは犠牲になっても仕方ありません」と平然としていたのに、たいへんに打たれたそうである。
この話に、会場が一斉に沸いた。フランス人なら、自分のところの権利とか、自分だけでもなんとかしろと、わめき続けるに違いないからである。
歌舞伎とか人情噺、日本人の心の中にある、身を犠牲にしても、世のため、恩人のための心構え、美しさは、驚異なのであろう。
それにしても、人の上に立つ側が、義務や責任を捨て忘れ、生き残りとかで、我武者羅の横暴をやるようになった、権利、権利の恐ろしい風潮に、思いが行くのであった。
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