会場の模様

和歌山市立博物館元副館長髙橋 克伸

津山洋学資料館元館長下山 純正

岡山県立博物館元学芸員木下  浩

第7回シンポジウム実施報告

久原洪哉 奥方の乳がんを摘出
華岡流医術に挑んだ医師たち

公益財団法人山陽放送学術文化財団は4月13日(木)、岡山日蘭協会の協力を得て、藩主夫人の乳がんを摘出した津山藩医久原洪哉ら華岡青洲門下の医師とその手術をテーマにしたシリーズ・シンポジウム「岡山蘭学の群像Ⅶ 久原洪哉 奥方の乳がんを摘出 華岡流医術に挑んだ医師たち」を、岡山市北区の山陽新聞社さん太ホールで開いた。会場は大勢の歴史ファンで満席となった。

華岡青洲の地元、和歌山市立博物館の髙橋克伸元副館長は基調講演の中で、「紀州の医師華岡青洲は自らが開発した麻酔薬『通仙散』を使って世界で初めて全身麻酔による乳がん摘出手術に成功した。また青洲は、縫合術を工夫し、乳癌だけでなく、膀胱結石・脱疽・腫瘍摘出術など様々な手術を行う一方、医塾春林軒を設け、存命中に1,130人を超える門下生を育てた」と青洲の功績を紹介した。

続いて、津山洋学資料館の下山純正元館長は藩主夫人儀姫の乳がん手術について、「人々の手前、病気のことを隠す必要があったと思われるが、周りの状況や史料から、藩医久原洪哉らがイギリス人医師ウィリスの助言を得て、乳がん手術を行い成功させたことは間違いない」とその事実を明かした。

また、岡山県立博物館の木下浩元学芸員は「備前金川で開業した難波抱節は私塾思誠堂を開き、『通仙散』を使って乳がんや脱疽などの手術を行い多くの人の命を救った。画像診断や輸血のできない時代に、手術に挑んだことは賞賛すべきだ」と抱節を高く評価した。

こうした麻酔による手術は、内科的治療だけに頼っていた当時の医療の形を一変し、治療の可能性を大きく広げることになったのだが、3人の講師は「華岡門人たちは地域医療の担い手として医師間のネットワークを築き、医療の質的・量的向上をもたらした」と結んだ。

「シンポジウム岡山蘭学の群像」は、鎖国のなかで日本の近代化を牽引してきた岡山ゆかりの蘭学者をテーマに、その業績と最新の研究の成果を紹介するシリーズ・シンポジウム。次回(第8回)は、シーボルトの鳴滝塾(長崎)で学んだ岡山の3人の蘭学者をテーマに、「シーボルトになろうとした男たち」と題して、8月25日(金)山陽新聞社さん太ホール(岡山市北区柳町)で開催する予定。