会場の模様

九州大学百年史編集室助教市原 猛志

岡山大学大学院准教授樋口 輝久

岡山県立記録資料館前館長在間 宣久

産業考古学会会長伊東  孝

第6回シンポジウム実施報告

オランダ技術で海を割った男 杉山岩三郎

公益財団法人山陽放送学術文化財団は平成28年11月25日(金)、オランダ技術を取入れて児島湾干拓や鉄道網整備を進めた杉山岩三郎をテーマにしたシリーズ・シンポジウム「岡山蘭学の群像Ⅵ オランダ技術で海を割った男 杉山岩三郎」を、岡山市北区の山陽新聞社さん太ホールで開いた。会場は大勢の歴史ファンで満席となった。

岡山藩監軍として奥羽函館戦争にも参戦した杉山岩三郎(1841~1913)。廃藩置県後下野し、士族授産事業として金融、紡績、地下資源開発、鉄道、新聞など幅広く事業を手掛ける。中でも杉山開墾(JR妹尾駅南付近)は、オランダ技術を取り入れた近代児島湾干拓の先駆けとなった。杉山はまた、現在の児島湾締切堤防付近を通過して都市部岡山と天然の良港宇野を直結する鉄道計画を描いている。まさに、海を割るこの開発計画は、県南地域の一体的な開発を見据えたものであった。

シンポジウムで基調講演した九州大学の市原猛志助教は、「日本の開墾事業は純粋な殖産興業として遂行されたが、オランダ人技術者は現場で献身的な努力をして日本人の技術者を育てた。杉山岩三郎は政府、地方官僚として活躍した知見を最大限に生かして、オランダ人工師ムルデルを招き、地域貢献事業を成し遂げた。

杉山が割ったものというのは、近世までの土木技術を引き継ぎ、完全にそれとは隔絶した外国人工師率いる事業とを分けて、両方を一度に成し遂げたというところだろう。大きな功績である。それが西郷隆盛に似た『備前西郷』の名にふさわしい慈善的な事業家ではないかと」と話した。

引き続き、伊東孝産業考古学会会長をコーディネーターにパネルディスカッションが行われ、岡山大学大学院の樋口輝久准教授、県立記録資料館の在間宣久前館長、市原助教の3人がパネリストとなって、杉山の生涯や当時の土木技術を巡って議論した。

杉山は干拓、鉄道のほかに、銀行、耐火レンガ、電灯会社など様々な事業を起こしており、「実業家として、江戸から明治へ橋渡しするプロデューサー的役割を果たした」と、その役割の大きさを指摘する意見が次々に出された。

「シンポジウム岡山蘭学の群像」は、鎖国のなかで日本の近代化を牽引してきた岡山ゆかりの蘭学者をテーマに、その業績と最新の研究の成果を紹介するシリーズ・シンポジウム。次回(第7回)は、津山藩にて藩主夫人儀姫の乳がん手術を成功させた華岡門下の藩医・久原洪哉をテーマに、「久原洪哉 奥方の乳がんを除去 華岡流医術に挑んだ医師たち」と題して、4月13日(木)山陽新聞社さん太ホール(岡山市北区柳町)で開催する予定。