会場の模様

豊田工業高等専門学校元教授幸田 正孝

獨協大学名誉教授加藤 僖重

青山学院女子短期大学学長八耳 俊文

津山洋学資料館元館長下山 純正

友光 雅司

第2回シンポジウム実施報告

「珈琲」の文字を作った男

公益財団法人山陽放送学術文化財団は7月30日、岡山日蘭協会の協力を得て、マルチ人間と言われた津山藩医(江戸詰)・宇田川榕菴をテーマにしたシンポジウム「岡山蘭学の群像Ⅱ 『珈琲』の文字を作った男 江戸のダ・ヴィンチ 宇田川榕菴」を岡山市北区の山陽新聞社さん太ホールで開いた。
会場は大勢の歴史ファンで満席となった。

家業ともいえる内科学を発展させる一方で、植物学や化学を日本に紹介。同時に西洋音楽、温泉、コーヒー、玩具など、日本で初めてのことに積極的に取り組んだ榕菴。江戸に参府したシーボルトとも交流し、日本には概念さえなかった化学を、『舎密開宗』を著して日本に紹介したほか、これも日本初の植物学書『植学啓原』を著す。現在私たちが使っている「花粉」などの言葉や、「酸素」「水素」などの元素名、「酸化」「還元」などの化学用語、「細胞」「属」といった生物学用語も榕菴が作った。また、オランダ商館長と面談した際に飲んだ黒い不思議な飲み物koffie(コーヒー)を『珈琲』とい二文字で表して日本に紹介し、その効能をまとめた論文「哥非乙説」を著したほか、西洋スゴロクやトランプも模写し作製したというマルチな人物である。

シンポジウムでは、豊田高専元教授で宇田川榕菴研究の第一人者・幸田正孝さんが「好奇心と冒険の人-宇田川榕菴」と題して基調講演。「花が咲いた後に実ができるのはどうしてか分からなかった時代に、榕菴が植物も動物も生物だという考え方を打ち立てた。また概念そのものが無かった化学をよく理解し日本に化学を紹介したのは画期的で、榕菴は日本近代化の祖ともいうべき業績を残した」と話した。

続いて、幸田元教授の他、植物学の立場から加藤僖重獨協大名誉教授、化学の立場から八耳俊文青山学院女子短大学長をパネリストに、津山洋学資料館の下山純正元館長をコーディネーターにしてパネルディスカッションが行われ、好奇心旺盛な榕菴のマルチぶりと遊び心も浮き彫りにするトークが繰り広げられた。

このほか会場では、榕菴の研究に因んで、榕菴がシーボルトに弾いて聞かせてもらったと思われるピアノ音楽の演奏や、当時の味を再現した『榕菴珈琲』の試飲・即売も行われた。

因みに演奏は、オランダ・ロッテルダム音楽院大学院で研鑽を積んだ友光雅司さん。当時、ヨーロッパを中心に大流行していたバッハ作曲:平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番より「プレリュード」、モーツァルト作曲:ネーテルラントの歌「ヴィレム・ファン・ナッサウ」による変奏曲、デュセック作曲:ピアノソナタより第1楽章の3曲が演奏された。

「シンポジウム岡山蘭学の群像」は、鎖国の中で日本の近代化を牽引してきた岡山の蘭学者を顕彰し最新の研究成果を紹介するためシリーズで開いているもので、第3回は、天然痘の予防に努め、また適塾を開設して明治維新の原動力となった福沢諭吉・大村益次郎らを育てた緒方洪庵をテーマに、12月3日(木)山陽新聞社さん太ホールで開催する。