Story
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打ち鳴らされる太鼓の音。男たちの掛け声。
物語の舞台となる愛媛県新居浜市は祭りに沸いていた。
喧騒から距離を置くように、病室と思しき個室の窓を閉める女性の後ろ姿。
彼女は遠い記憶に思いをはせていた。
動物園。走る子ども。追いかける父と母。
見守るようにライオンがたたずんでいる。
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母・有希子と一人息子・嘉成。買い物帰り。
嘉成は道端を這うダンゴムシを見つけては立ち止まり、
何をするでもなくじっと目で追いかける。
帰ろうと手を引いても動かない。
しびれを切らした有希子は抱きかかえて帰ろうとするが抵抗され、
買い物袋の中の生卵は粉々に割れてしまう。
嘉成は自閉症だった。
どれだけの施設の門を叩いただろう。
行く先々で返ってくる言葉は決まって
「泣かさないようにやさしく」
「その子に合わせて」
「しっかりスキンシップをとって」
どれも有希子には問題を先送りする気休めにしか聞こえなかった。
「このままで良い筈がない」
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やがて、ある療育者との出会いが母子の日常を変えることになる。
「泣き」に心を乱されて療育の手を止めてはいけない。
「知識ある愛」をもって、叱らないけど、譲らない療育を行き届かせること。
何も特別なことではなく、当たり前の教育を丁寧に施すのは親の務めなのだと。
「この療育は信じられる」
意を決した有希子と嘉成の険しくも愛に満ちた療育の日々がスタートした。
もう一つのストーリー。
それが、現在のアーティスト石村嘉成を追うドキュメンタリー。
なぜ彼は動物を描くのか。
それは、母・有希子さんの導きがあったから。
自閉症の嘉成さんに「何か夢中になれるものを」と、
母子で足しげく通ったのが動物園だった。
とりわけ、嘉成さんはライオンに夢中だった。
キャンバスの中の動物たちは、母の記憶の原風景。
あふれる色彩は母と見た思い出の色。
今日も嘉成さんは、天国の有希子さんと
絵筆を握り、走らせ、キャンバスの動物たちに命を吹き込んでいる。
そして誓う。
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